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2009/12/17

虎よ、虎よ

「公式記録」がどこまで伸びるのか知りませんけれども、いちおう数日前に14人目が名乗り出たタイガー・ウッズの愛人騒ぎ。
あのタイガーだもの、十数人なんてけちなことを言わずに、愛人百人くらいは男の勲章であるとホントはみんな思っているのだが、まあ、さすがにこれは大きな声では言えない。

なんでもあの奥方、逃げるタイガーをゴルフクラブで追い回したそうですね。なかなか派手な大立ち回りである。日本なら夫婦喧嘩は犬も食わないと言って警察も「あほくさ」といって帰っちゃうところですが、アメリカだと家庭内暴力事件になりかけてしまう。
いや、消火栓にぶつけて車内で意識朦朧となったボクを、勇敢にもゴルフクラブで窓を割り救助してくれたんだ、なんてねえ——小学生だってもっとましなウソを思いつく。(笑)

さて、逃げる浮気亭主を得物をもった悋気の奥方が追っかける図といえば、日本にこういう話がある。ネタは三田村鳶魚の「江戸の女」から。

上州安中二万石、水野信濃守元知(ゆきとも)という殿様の奥方がひどい焼餅でとうとうお家おとり潰しになったという一件があるのだそうで。
なんでも水野が参勤交代によって数年ぶりに江戸へ出てきた晩、この奥方のいらっしゃる上屋敷には姿をみせず、妾を何人も置いている下屋敷の方へ行っちゃったというのですね。うん、これはちょっとまずいね。なんと言っても正妻は正妻なんだから、入府したらとにかく、「やあやあ、しばらく。元気だったかい。うん、おかげでこっちも息災さ。じゃあまた明日」くらいの挨拶をして、それから愛人たちのところに行けばよかったのですよね。イギリスの貴族なんかなら、間違いなくこのあたりはうまくやるよ、きっと。

だが、この仕打ちに怒った水野の奥方は翌日、ぬけぬけとやってきた信濃守の顔を見るや、「お覚えがありましょう」の一声で長押の薙刀とって飛びかかって来られた、ト。信濃守、びっくり仰天して奥から表へ逃げ出し邸中大騒ぎ。(笑)この不始末、すぐに江戸中に広まるわ、将軍の耳にまで届くわでとうとう信州松本へ配流、お家は断絶という始末であった。

さらにこんな話は、もっと古くからいくらもあって、と鳶魚翁は筆をすすめ、なんとあの常に一番槍で勇猛果敢な福島正則が唯一敵に後を見せた逸話を語っておられます。タイガー・ウッズに聞かせて、なぐさめてやりたいたい話ですねえ。

水野信濃守が奥方の薙刀にびっくり仰天して、奥から表へ逃げ出したのは、いかにも不覚らしい話で、みっともないようでありますが、こんな話は水野ばかりじゃない。大坂時代に荒大名といわれた福島正則なども、奥方に薙刀で追い駆けられて、表座敷へ逃げて来た。あとで正則が近臣に話されたところによりますと、自分は今日までどんな戦場へ出かけて行っても、敵に後を見せたことはないが、今日は畳の上で敵に後を見せた、どうも女の怒っているほど凄まじいものはない、ということであったそうです。あれだけ荒武者の福島正則でさえ、恐れをなすくらいですから、水野信濃守あたりがびっくりするのは、むしろ当然の話でありましょう。

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