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2009/12/26

柏木如亭の最期

今年の三月に『日本漢詩人選集8 柏木如亭』と『訳注聯珠詩格』をタネ本に「柏木如亭のこと」という記事を書いた。(こちら)
そのなかで、戦後における如亭再評価の口火は日夏耿之介だが、富士川英郎と中村真一郎の著作でも広く知られるようになったということを書いた。
というわけで、今回はその中村真一郎の『頼山陽とその時代』から如亭の最期に関することなどを覚えとして。

が、その前に、まず『頼山陽とその時代』について。
この本、小さな活字でニ段組650頁近い分量がありまして、かすみ眼で五十肩の老書生にとっては、まあ、読みにこと重いこと。とても通勤電車向きの本ではありません。仕方がないので、めずらしくコタツや、机で長時間の読書となっております。
また内容をご存知の方は、「そら見たことか」とお笑いになるかもしれないが、この時代の学者や文人の詩(漢詩)をこれでもかというくらい読まされるので、読みの分らない漢字が気になって頻繁に漢和辞書に当たるはめに陥ります。いつものように寝床でするするというようなお気楽な読書ができません。一頁読むにも、池波正太郎の十倍くらいはかかる。いや、これは比較の対象が不適切だけれども。(笑)
まあ、漢和のほうは、たまたま電子辞書という便利な道具がありますので助かっております。タッチペンでディスプレイに字を書くとほとんどきちんと認識してくれるので、いちいち画数を数えたり、部首がどれじゃろうと頭を悩ます必要がなくなったのはありがたいことであります。

閑話休題。
頼山陽と柏木如亭が知り合ったのは京都である。今回は如亭の話なのでくわしいことは端折るが、この山陽というのはとかく問題の多い人で、このときは広島の藩儒の家を廃嫡となって京で私塾を開こうとしていたのでありますね。でもって如亭のほうはもとより旅から旅の身の上ですが、たまたま在京中に二人は知り合って意気投合した。
山陽は京都の儒学者たちには評判が悪く―といっても、この人は、どこへ行ってもいじめに遇いやすいようなちょっとヘンな奴だったようですが―孤独をかこっていたところ、如亭がキミは無闇と交際を求めずに「ヒトリッコ」で遊べばいいじゃないか、と忠告してくれて、山陽しみじみありがたかったというようなことがあった。なお如亭は山陽より十七歳ばかり年長であります。

さて、それからいろいろありまして、山陽は九州は博多、長崎、肥後、薩摩、豊後と旅に出ます。如亭もまたしばらくは備中のほうで稼いでくるから、また京都で一緒に遊ぼうや、とふたりは約束して別れた。が、それがふたりの永訣となった。以下は、中村真一郎の本から――

山陽が帰洛すると、待っていた春琴が、如亭の死に際の困窮ぶりを話してくれた。
「伯擧(春琴)、ソノ終リニ臨ミテ困蹙尤モ甚ダシク、其ノ筆研書帙ヲ鬻(ひさ)ギテ、纔カニ能ク之ヲ葬リシヲ説ク。」
春琴が遺された文具や書籍を売って、辛うじて葬式を出したのだった。その悲惨な状況を、星巌も後にこう詠じている。
「憶ヒ得タリ、去秋、藁殯ノ日。藤条手縛ス木皮ノ棺。」
如亭の棺は藤蔓で結えただけの粗末なものであった。
山陽は若し如亭が「少シク節ヲ折リ行ヒヲ飾リ」さえすれば、このような困窮には堕さないで済んだだろうと言う。何しろ、寛齋一派の詩人たちは皆「上游ニ拠リ、王侯ニ交通シ」ていたのだから。しかしそれの出来ないところが「是レ其ノ山人タル所以ナリ」と、山陽は知己の言を添えている。
山陽は如亭の生活振りについてこう述べる。
「山人、官を弃(す)テ髪ヲ削リ、雙影千里、雲水僧ノ如シ。而モ服ハ必ズ時様、風流自ラ喜ブ。游冶少年ノ如シ。喜ンデ座ヲ罵リ、時新ヲ食シ、銭ヲ論ゼズ。侠客ノ如シ。」
彼は漂泊の身にありながら、常にニュー・ファッションの服を着て、プレイ・ボーイの態をなしていた。
「而モ飲ハ蕉葉ニモ任セズ。」彼は殆んど酒はひと口も飲めなかった。(ここのところ、誇張があるかも知れない。如亭はその『詩本草』中で、酒の味を論評しているからである。)
「几研整斎、性短視ニシテ、詩ヲ録スルニ必ズ小楷ヲ用フ、謹勅書生ノ如シ。」
この遊蕩児は、しかし書斎に入れば、塵ひとつない机に向って、正確な細字で詩を丹念に書き写していた。その「遊冶少年」とこの「謹勅書生」との同一人物中での共存ぶりの描写は、いかにも山陽らしい小説的対照である。
『頼山陽とその時代』 p.335

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