頼山陽「兵児の歌」
藤原書店の『一海知義著作集 第9巻』から。
頼山陽に「兵児の歌」と題する楽府体の詩がある。楽府(がふ)というのは民間歌謡風の詩である。
衣至骭
袖至腕
腰間秋水鉄可断
人触斬人
馬触斬馬
十八結交健児社
北客能来何以酬
弾丸硝薬是膳羞
客猶不属饜
好以宝刀加渠頭
訓読は以下の通り。
衣は骭(すね)に至り
袖は腕に至る
腰間の秋水 鉄も断つべし
人触れなば人を斬り
馬触れなば馬を斬る
十八 交わりを結ぶ健児の社
北客 能(よ)く来たれば何を以て酬いん
弾丸 硝薬 是れ膳羞(ぜんしゅう)
客 猶お属饜(あきたら)ずんば
好し 宝刀を以て渠(かれ)が頭に加えん
和訳として。
裾は すねまで
袖は 腕
腰の剣は 鉄も断つ
人がさはれば 人を斬り
馬がさはれば 馬を斬る
若さを誓ふ 兵児(へこ)仲間
北の客人 来るならば
えんしょ(硝煙) さかな(肴)に弾丸(たま)会釈
それを聞かずに 来るならば
首に刀を ひきでもの
以下は一海先生の文章を引く。なんだ、丸写しかよ、と怒られそうだが、読んでもらえばわかるように孫引きに近いものなのでご容赦のほど。
あとの和訳、なかなかのもの、と思わせておいて、実は「白状すると、これが原作なので、もともとこれが当時の薩摩(鹿児島)の民謡なのであった。山陽がそれを漢詩になおしたもの」とタネをあかすのは、土岐善麿氏の訳詩集『鶯の卵』である。ただし、戦後再版された『鶯の卵』(春秋社、一九五六年)には見えず、戦前の版(改造文庫、一九三二年)の序文にあたる「漢詩邦訳に就て」の中で紹介されている。戦後の読者の目にはふれにくいと思われるので、再録した。
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