« 2010年みすず読書アンケート | トップページ | フルトヴェングラーかカラヤンか »

2010/02/10

Love Begins in Winter

フランク・オコナー賞(Frank O'Connor International Short Story Award)というと、第一回の2005年にイーユン・リーが、2006年に村上春樹が、2008年にジュンパ・ラヒリが受賞ということで、短編小説の国際賞としては、現代ではもっとも注目度の高い文学賞のひとつだと思うけれど、昨年は、Simon Van Booyという新進の作家に贈られた。
ウィキペディアによれば、Booy は、Boy と同じ発音なんだとか。

20100210d261

1975年生まれといいますから、まだ35歳ですね。今回受賞したのは『Love Begins in Winter』という、著者の二冊目の短編集であります。なんかよさそうな匂いがしたので早速読んでみましたが、これは大当たり、ど真ん中でわたし好みの小説でした。

ちょっとかなしく、ちょっとせつない、しかしおおげさな絶望に浸るのではなく、かすかな曙光のような明るさが底にたたえられた比類なく美しい物語。登場人物は、だれも喪失のいたみをかかえて生きていますが、そのいたみはながい年月のはてにも、決していやされることはない。本来、喪失とはそういうものだから。だが、そういう喪失をこころにかかえたままでも、ふたたび人生をはじめることはできるんだよ、というのが、この短編集の底にながれる通奏曲でしょうか。甘いと言いたい人は言えばいいと思う。わたしには、これはすとんとわかることなので、小賢しい批評をする気が起らないのであります。

収録作は以下の通り。

Love Begins in Winter
Tiger, Tiger
The Missing Statues
The Coming and Going of Strangers
The City of Windy Trees

どれも上質な短編で推奨できるが、とくにわたしが気に入ったのは。表題作の「Love Begins in Winter」と「The City of Windy Trees」だな。
文章は、基本的に短いセンテンスで、平易な表現だが読むのが快い。ものごとを定義してみせるような文章に切れ味がある。内容見本として二三の短文をあげておく。

Solitude and depression are like swimming and drowning.

                     *            

For Jane knew that wisdom means knowing when to give everything, knowing exactly the right time to give everything and admit you've done it and not look back.

                     *

Some mornings, the moment before she opened her eyes, she had forgotten they were gone, then like all those left behind in the world, Jane would have to begin again. For, despite the accumulation of experience, one must always be ready to begin again, until it's someone else's turn to begin without us, and we are completely free from the pain of love, from the pain of attachment--the price we pay to be involved.

Booyure

こういう文章や、著者の写真から、すごく繊細な詩人タイプを想像すると思うのだが——そしてそれは事実その通りには違いないとわたしも思うのだが——もし、虚弱で過保護な学生時代を送った青年を思い浮かべるとどうもそれは誤った先入観のよらしむところということになりそうだ。
ファン・ボーイは、ラグビーの選手として奨学金を得て進学しているのだそうです。体型からみてもあきらかですが、とうぜんウィングですね。
さぞ俊足で、走り出したらだれも追いつけないようなタイプのプレイヤーだったことでしょう。

Love Begins in Winter: Five Stories (P.S.)

|

« 2010年みすず読書アンケート | トップページ | フルトヴェングラーかカラヤンか »

b)書評」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Love Begins in Winter:

« 2010年みすず読書アンケート | トップページ | フルトヴェングラーかカラヤンか »