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2011/03/06

自然が一番はウソなのか(3)

わたし自身が現にそうであるが、朝から晩まで空調の効いたビルでデスクワークをしているサラリーマンから見ると、農業は自然にもっとも近い働き方のように思える。
空気もいいし、ややこしい人間関係の軋轢も、ノルマや納期に追われるストレスもないように見える。土を耕し、種を蒔き、収穫するというサイクルもいかにものんびりして人間らしい生き方がそこにあるように思う。なにしろ人間は自然が一番なのだ、というお気楽な都会人の憧れ。

しかし、そんな空想は真剣に農業経営をしている農家に失礼というものだろう。現実逃避の夢を勝手に農業に持ち込むのはやめてほしい、と言われるのではないかと思う。
サラリーマンの世界にあるストレスはすべて農家にあるよ、あたりまえじゃん、と諭されるに違いない。

そもそも農業は自然を相手にしているように見えるが、ほんとうはやむをえずそうしているにすぎない。趣味で楽しむ家庭菜園とは違うのである。生きるたつきとして考えれば、収量を上げるために、気温、日照、雨、肥料、病害虫、すべての条件を、できることなら自分の手でコントロールしたいのである。しかし経済活動には採算というものがある。だから、なんとか自然環境で生育できる作物は運を天に任せて露地栽培するのである。せいぜい、ビニールでトンネルをつくるとか、虫除け、鳥除けのネットを張るとかするくらいに留めるのである。

しかし、そういう、やむを得ず自然に任せた農業さえ、ほんとうはまったく自然ではないんだなあ。

わたしたちが毎日食べる野菜は、まず間違いなく、種苗会社のタネから育ったものだ。なんで農家が毎年、種苗会社のタネを買うかといえば(だって農家なんだもの、作物の一部から自家採種しようと思えばできるし、現にそうしている人もいないことはない)、それが一番儲かるからだ。なんで儲かるかといえば、種苗会社のタネから育つ野菜は、消費者好みの味だったり、収量が多かったり、病害虫に強かったり、栽培期間が短かったりするからであります。

じつは種苗会社のタネは、そうした(人間にとって)好ましい形質を生み出すように、まったく違った遺伝形質をもつ親同士を交配させた雑種なんですね。
うん、それはわかるよ、そりゃ大企業がカネをかけてつくってるんだものね。でも、それなら、その種苗会社のタネから野菜を育てて、その野菜から自分でタネをとればいいじゃん、と思ったあなたはたぶん高校の授業をさぼった人であります。

そうです、ご明察。要はメンデルの法則なんですよ。

Mendelian

種苗会社のタネは雑種の一世代目なんですね。これをF1品種と呼びます。(FはFilialの略)
異なる形質をもつ親同士をかけあわせた雑種の第一代は、優性形質は発現しますが劣性形質はかくれたままになります。ところが、このF1の次の世代になると表に出したくない形質もかならず一定の割合で発現してしまうわけですね。つまり、F1の野菜からタネをとると次の世代の一部は、育てにくかったり、味が悪かったり、収量が少なかったりかもしれない。少なくともF1品種のように結果の予測ができません。

だからほとんどの農家は、毎年、毎年、最初から種苗会社のF1品種のタネを買って栽培をするわけであります。
いつもF1。
野菜たちは自然の繁殖でF2、F3と子孫を広げることは許されません。野菜の身になるとなんだか悲しい。しかし、それが、毎日わたしたちが通勤電車から眺めている沿線の畑の作物というものなのですね。
畑は自然でいいなあ、なんて思っているようではナイーヴに過ぎるのであります。

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「a)里山の日々」カテゴリの記事

コメント

前回からの続きですが、「自然」とはなんぞやとの問いかけなのでしょう。上のクローンの事情は当然の人類の営みであって、一種の近代化の成果と思うのですが、それと「遺伝子工学での新生物とは何が違うか」がそこで問いかけられると思います。

食品における遺伝子工学改良を完全否定するEUの感覚でそれを説明すると、実証主義的な自然科学としてもしくは一般的な認識として新しい試みが定着しているかいないかの差であります。

先日の水栽培は価格面で折り合いがつけばEUでも問題はないかと思いますが、スペイン産温室イチゴやアスパラガスのように旬の泥のついたものの半額近くまで安く供給されない限り市場はあまりありません。それでも美味しければ売れるのですが、付加価値がつくほどにはならないということですね。

投稿: pfaelzerwein | 2011/03/07 04:35

ご賢察のとおり、愚考の向かう先は遺伝子操作による農業技術になります。日本の農政は、アメリカよりもEUに範を求めているのかなという感じをわたしはもっているのですが、pfaelzerwein さんから、いろいろそちらの具体例を教えていただければ嬉しいです。
遺伝子操作の作物についてはひきつづき(4)であらためて考えてみます。

投稿: かわうそ亭 | 2011/03/07 23:11

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