TPPについて語る時にやつらの語ること(上)
池上彰さんには及びもないが、世の中の動きにそれなりに気を配っている人であっても、TPPとは何ぞやということについて、きちんと説明できるかどうかというと、少々あやしいような気がする。
もちろんわたしだって、これがなんであるか、さっぱりわからない。
わからないけど、どうやらこのバスに乗り遅れると、とんでもないことになりそうだという雰囲気だけはひしひしと伝わってくるね。
たとえば、読売新聞の9月6日付の社説は、タイトルからしてすごいよ。
「TPP 交渉のテーブルに早く着け――通商政策の出遅れを挽回するために、日本に残された時間は少ない」
ところどころ端折って転記すると、こんな感じである。
野田政権は、米国や豪州、シンガポールなど9か国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を決断すべきである。
米国主導のTPPは、鉱工業品、農産物、サービスなどの幅広い分野で貿易自由化を進め、自由貿易圏を形成する構想だ。
モノの関税を原則として10年以内に撤廃する内容とされ、アジア太平洋地域の新たな貿易や投資ルールとなる可能性が高い。
危機感が薄いのではないか。少子高齢化が進む日本は、成長著しいアジアなどの活力を貿易自由化によって取り込み、成長を実現する必要がある。
超円高と電力不足を懸念し、製造業が生産拠点を海外に移転する動きが進んでおり、産業の空洞化が懸念される。TPPの出遅れが重なると、日本経済の衰退を招きかねないだろう。
政府は8月、農地の大規模化などを盛り込んだ農業再生の中間提言をまとめた。提言に沿い、野田政権は、貿易自由化に対応できる農業の競争力強化策を打ち出すことが肝要である。
最後に農業再生について出てくるのは、TPPによって日本の農業が深刻な影響を受けることを推進派のみなさんもわかっているからでありますね。
ただ。ここからが、TPPの議論がねじれていくところなんだが、経産省や財界などのTPP推進派は、日本の農業はやり方によっては十分国際的な競争力を持てるから大丈夫だ。だからいまのダメ農業を守るためにTPPに参加しないのは国益を損ねるという議論の組み立て方をするんですよね。わたしたちだって日本の農業が心配で仕方ないんです。大規模化して強くしましょうよ。やり方はちゃんと教えます。だからこれはTPPとは分けて考えましょうよ、というような作戦のようです。
一方、TPP反対派は、TPPで日本の農業は壊滅し、食料自給率も危機的な数字になるよというストレートな反対意見ももちろんあるけれど、もう少し洗練された議論では、いやTPPは農業だけが問題なのではなくて、鉱工業もサービスも、医療も社会保障制度も、すべての国内の仕組みを最終的にはアメリカの法制、基準にそろえることになってしまうのだけど、ほんとにそれでいいのかい。グローバルな事業展開する企業とかお金持ちのみなさんには、それは歓迎すべき日本かも知れないけど、それ以外の圧倒的多数の人にとっては、おそろしくきびしい社会が待っているよ。ほんとうにみなさんは日本をアメリカみたいな社会にしたいのですか、というタマを投げてくる。
つまり、推進派は農業も成長産業にできるからやろうと言い、反対派は農業以外もおかしくなるから止めようと言っているわけで、どちらも農業問題だけに焦点を絞らないように議論を組み立てているところが面白い。世論形成は多数派工作だから、両陣営ともこういう作戦になっているのでありましょう。
(以下次号)
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