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2011/09/14

TPPについて語る時にやつらの語ること(下)

大前研一のあげているコシヒカリ1キロが日本は500円、オーストラリアは25円というのは、ほんとうはもうすこし丁寧に説明する必要があるのだが、大筋で間違ってはいない。

日本のコメの価格は農家が売る価格(農家庭先価格/price at farmyard)で、だいたい60キロ1万4000円ほど。だからキロにすれば230円くらいです。
魚沼産コシヒカリなどのブランド米は(そんなに味に差があるかどうかはさておき)店頭でキロ800円くらいで売ってるところもあるから、まあ大前研一のキロ500円というのも嘘ではない。
一方コメ1キロつくるのにいくらかかるかというと、農水省の「農業経営統計調査 平成20年産 米生産費」によれば、275円となっている。(正確には「60キログラム当たり全算入生産費は1万6497円」という表現)
コメ価格というのはだいたいどの国でも生産費と国内価格は同じくらいになるんですね。
でタイやオーストラリアやアメリカでは、生産費はキロ当たり25円くらいですから、関税がなくなって現地の価格そのままで輸入できるとすると、為替レートにもよるが1キロ20円以下で日本に入ってきてもおかしくない。

でもねえ、御存知ですか。いまでさえご飯はお茶碗一杯30円から40円くらいですよ。これが1円とか2円になることがそんなにいいことなんですかね。
やだ、ドックフードのほうが100倍以上するのね、ご飯なんて水みたいなもんだわねということになりますわな。やれやれ。

TPPに入らなければ、企業は世界市場を失い、金融も投資機会を失い、日本は衰退するんだよ。だから農業の人には気の毒だけど廃業してほかの仕事してもらって、日本の強みである農業以外の産業で食っていこう、それしかないじゃん、ということにどうやらなりそうです。

ふーん、とわたしは思う。ほんとうにそうなのかなあ。

わたしの意見だが、たしかに日本の企業やビジネスマンはかなりいいプレーヤーではあるけれど、政界、官界、経済界のお偉いさんたちが夜郎自大に思っているほど強いわけでもない。
エリートのみなさんは、このままでは企業が日本を見捨てて外国に出て行っちゃうぞ、と国民を脅しているが、外国に拠点を移せばまだまだ勝てると思っているところがそもそも間違っています。出て行きたきゃ行けばいいけど、出て行った国で、ぼろぼろに食い物にされ、せっかく国内で貯めた資本をあっという間に使い果たしてしまうね。(ほんの例外のように海外で成功する企業もあるかもしれないが、そういう企業は日本の雇用や税収にはまったく貢献しないかたちをとっているはず)
したがって国民がTPPに反対したら、逃げ出した企業は生き残るけど、残された日本は空洞化するというふうにはたぶんならないとわたしはにらんでいます。やっぱり、日本で食わせてくださいねと媚を売ってすり寄って来るでしょう。

TPPに入ったら、当面は企業は関税のないアメリカを中心とした経済ブロックでそれなりの果実を手に入れるでしょうから、それはそれで悪い話ではない。ただし、問題はそれがおそろしく不安定なバランスの上での果実であるということで、気象変動、国際政治などのほんのわずかな狂いで、食糧危機が日本を襲うことになるでしょうね。
集約化、大規模化して強い農業をつくると、かれらは言いますが、おそらくTPPに入った数年の間に、あらんかぎりの資本を投下して集約化し大規模化した農業法人からどんどん行き詰まるとわたしはにらんでいます。結局残るのは、自分の家族親戚などのためだけに耕作するという、経済合理性から外れた零細農家だけでしょう。実質的に日本から産業としての農業は一時的に消滅します。

ええやん、ご飯一杯1円のコメが入らなくなれば、200円出してでも外国から買えや、とおっしゃる?わたしはもし気象変動や戦争などで食糧が不足したら、いくらカネ出しても無理と思いますよ。どの国だってそもそも余ったコメがなきゃ国際市場には出さない。自国民優先である。あたりまえ。たとえカネづくで買い集めることができたとしても、それは産地に飢餓をもたらすことになりますから、恨みを買いテロを呼ぶのじゃないかと、わたしなどは思いますがね。
土地はあるんやから、また田んぼに戻して百姓にコメつくらせえや、とおっしゃる?まあ数年かかるので、その間、みなさん小さなお子さんにも食べるの我慢させはるんでっか、とわたしなどは思いますがね。

いずれにしても、クルマや、デジカメはなんぼ市場にあふれていても、それは食えませんよ。60年間、日本人が仕合せなことに忘れていた飢餓が甦り、コメよこせのデモが頻発しても、そのとき日本の農業は死んでいます。
自業自得とむかしの人は言ったものであります。

たしか憲法の前文にこんな言葉がありますな。
日本国民は「諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」
そうですか、あれはそういう意味もあったのか。
自分らは農業を捨てますが、いざ食い物がなくなって飢え死にしそうなときはみなさんお恵みをよろしくお願いします、という国になるわけだ。さぞかし物乞い国家とさげすまれることでありましょう。
ほんとうにバカばっか。



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