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2012/02/10

オリエント急行の殺人

Screencapture

デビッド・スーシェによる名探偵ポアロの新シリーズがBSプレミアムで4夜連続で放映されている。イギリスのTVドラマは丁寧な作り込みで大好きである。最近ではBBCの「SHERLOCK シャーロック」の3つのエピソードがよかったなあ。録画して三回も見てしまった。あのスタイリッシュな映像、はやく第2シリーズを放映してほしい。

さてポアロである。昨夜は「オリエント急行の殺人」。
まあ、いまさらオリエント急行でもないか、映像化ならバーグマンが助演賞を穫ったむかしの映画で十分だ。パスしようと思ってたのだが、家族につきあって見てみたら(見はじめたほうは例によって途中ぐうぐう寝てましたが)これが意外や意外、じつに面白かった。

いかにミステリの古典中の古典といえども、はじめて読む(または見る)という世代は次々にでてくるわけだから、そのトリックをべらべらしゃべるのはエチケットに反する。——というわけで、これはアレですよ、としかここでは書かないが、ポアロの灰色の脳細胞が導き出した真相はもちろんアレである。その点ではエンディングを知っている人にはなんの目新しさも意外性もないのだけれど、それでもわたしはこれをたいへんよくできた原作の新解釈として評価するなあ。

とくにこれは映像化であるからして、ほかにもあるとはいえ、わたしのようなふつうのミステリファンや映画ファンが比べるとすれば、上に述べたシドニー・ルメット監督の遺作、1974年の映画であろう。あれもたいへんよくできた映画だったけれど、ラストがとくにそうであったように印象は明るい。
今回のオリエント急行は、あれと違う、かなり苦い味わいに仕上げている。たぶん、クリスティの原作は前者に近いと思うが、いまさらオリエント急行なんて、というわたしのような先入観が多くの視聴者にあるのは間違いないだろうから、そういう一種のハンデを背負った役者や製作スタッフがああでもないこうでもないと、徹底的に討議した(かどうかは知らないが)結果、こういう解釈で戦おう(?)ということになったのではないかしらん。

その解釈がどういうものであるか、ということもまあネタバレになるからここでは書かないが、真相のアレはさほど重要じゃないというのがまあ新しいのね。でもって、わたしが面白いなあと思ったのは、現代のわたしたちの感覚からすると、そんなんあたりまえじゃんという「裁き」のありかたに対して、ポアロが見せる苦悩でありますね。考えてみると、現代のわたしたちにはこういう苦悩がすっぽり抜け落ちている。ラストシーンに出てくるポアロの数珠のクルスが象徴するものをもういちど考えてみるのもいいかもしれない。
まあ、ミステリはもっとお気楽な人殺しのほうがいいなあ、とも思いますが、そういう方向ではこの作品の映像化は二番煎じになりますから、これはこれで大正解ではないかと思います。

オンデマンドでも見ることが出来るようですので、クリスティの愛読者には、ひと味違う映像化としてお勧めの一編ではないかと。

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コメント

久しぶりに、ご挨拶申し上げます!
私も「新」ポアロ・シリーズの4夜、総てを見ました。ことに「オリエント急行」は最も楽しみにしていました。
仰言る通り、豪華キャストの映画版の印象が先行する視聴者に向けてのTV版は、ハンデが多く大変だったでしょうね。しかし苦心の末の「やゝ暗め」の仕上がり、ことに映画版では「裁き」の正当さを有無も言わさずに押し付けているのに比べて、ポアロの苦悩が良く描かれていました。やはりポアロはD.Suchetに限ります。
しかしエンタテインメントとしては、映画の方が楽しめるのは仕方ないんでしょうね。オリエント急行がイスタンブールを出発するまでのわくわくする情景は、断然映画版に軍配が上がります。ベラパラス・ホテルも本物のようだし、特に始発のシルケジ駅は、オリエント急行のホームは映画版の通り進行方向左側のはずで、TV版では反対(右側)になっているのが気になりました。映画版は、いろいろな人種が行き交う駅を強調するために、日本人か支那人か分からない衣装の女性の一群を出すなど、噴飯ものの場面もありましたが。
やゝマニアックな見方で済みません。

投稿: 我善坊 | 2012/02/10 22:27

こんにちわ。お久しぶりです。
へえ、そうなんですか。プラットホームがどちらかということは全然思い至りませんでした。面白いですねえ。神は細部に宿り給う、といいますが、そういうちょっとしたことに気づくのは楽しい。
スーシェのポアロはいいですよね。今回はとくに見応えがありました。

投稿: かわうそ亭 | 2012/02/11 08:01

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