奇跡の農法なんてないんじゃね?(3)
さて、自然農法の悪口めいたことを書いてきたけれども、じゃあ慣行農法のほうが優れているのかというと、それはそれでちょっと口が重くなる。
たとえば農文協の「現代農業」という雑誌がある。この出版社は自然農法にも力を入れている立場だということをまず頭にいれて以下をお読みいただきたい。
6月号の「農家が見る病害虫写真館」という特集で、いろんな野菜農家の日常の栽培管理がわかる。
たとえば高知県安芸市のナス農家・Nさんの場合——
それ(ススカビ病のこと・獺亭注)には早期防除。ふだんはダコニールとかで15日おきに定期予防散布してるけど、病気の葉を見たら7日おきにかける。葉の表に黄色い病斑が二、三見えたくらいで薬剤をやらんとダメやろね。
あるいは、宮崎県西都市のキュウリ農家・Tさんの場合——
でもオレ最近、菌核にすごく効くクスリの混用を見つけた。こんな尻が腐れかけたやつが出ても、それをかけたら治ったからね。ポリベリン+スミレックスよ。ポリベリンはポリオキシンとベフランが入った混合剤だけど、それとベフラン(原文通り。スミレックスの誤りか・獺亭注)の組み合わせがいいみたい。
貸し農園時代、仲間とおしゃべりしているときに、ひとりのメンバーが近所の農家のやってる農薬散布について、「だって○○んとこは、自分ちじゃ、あの茄子、ぜったい食わないんだっておれにはっきり言ったぜ。別のとこに小さな畑つくって、そっちで農薬かけない茄子をつくってるんだとよ。孫にこんなモン食わせられねえからなあ、なんだと」
「ははは、ちがいねえ」
消費者の皆さんは、こういうことはうすうすとは知っていると思う。そして、どうしてお百姓さんは、農薬なんてものを使うんだろう。無農薬でやってくれればいいのにと思っている。
では、右の写真を見ていただこう。
自分の恥をさらすことになるが、これはこの6月22日に撮ったわたしの畑のブロッコリーで一番ひどい食害の葉っぱの無惨な姿だ。やったのはモンシロチョウの卵から孵った青虫である。
だめな百姓だなあ、と思われるだろうが、農薬をつかわないということは、こういうリスクをつねに抱えるということなんである。
では、ワタクシは百姓としてさぼっていたのか。
毎日ひらひら優雅にモンシロチョウは畑を舞う。畑の作業をするときに、わたしは子供用の捕虫網を携えている。べつにそれが目的ではないが、行きがけの駄賃とばかり、近くに、ふーんふーんと(別にそういう声がするわけではないが、こっちはこんな気がするのね)モンシロチョウがやってくると、捕虫網を一振り、運がよければ確保してただちに網越しに踏みつぶす。その数、たぶん一日で30頭はくだらないだろう。
早朝と夕方には時間があれば極力見回って青虫の捕殺をする。一株で、多いときは4、5匹はみつけてすぐにつぶす。指先が緑に染まる。30株あるから一日で100匹から多いときは200匹くらいは殺しているだろう。
べつにブロッコリーだけではないから(今年は山口県はカメムシも異常発生でピーマンや獅子唐のカメムシも捕殺しなきゃならない)これが毎日ではないが、5月、6月で20日くらいこういう日があると思うので、少なく見積もって、わたしはこのシーズン、モンシロチョウは600頭、青虫は2000匹くらいを捕殺していることになる。
それでも、雨が降ればハウス栽培ではないから、畑には入れない。雨があがるとすぐにモンシロチョウは、ふんふーんと優雅に舞って、ブロッコリーやキャベツに卵を産みつけ、幼虫の捕殺が2日も遅れれば、野菜は写真のようにされてしまうこともあるのですね。
(以下次号)
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