『うたの動物記』小池光
小池光の『うたの動物記』(日本経済新聞出版社)は装丁もきれいで楽しい本だ。もともとは日経の日曜版に2年あまり連載されたもの。見開き2ページで一回分なので、どこから読んでもいいし、どこで中断してもきりがいい。
目次を最初の方から拾うと、馬、秋刀魚、キリン、コオロギ、とんぼ、カバ、鹿、鳩、駱駝・・・とつづいて、105回分。ただし馬がなぜか二回取り上げられているので登場する生き物は全部で104種。もっともなかには河童という種族もいるけれど。(笑)
「あとがき」で、小池さんはたとえば茂吉の『赤光』が、多種多様な動物にあふれていることを指摘しているが、わたしのたよりない記憶では、ご自身の歌がまさにそうではなかったか。
交接の馬曇天に果てるまでさむざむと見て引き返しきぬ
きみはむかしゆかいな兵士 一匹の老犬眠る合歓の木の下
膃肭獣のももいろの仔の犇めける渚踏まむかわれは素足に
象の眼を仰ぎて見ればほのかなるくれなゐやどす桜ちる日に
これらの小池さんの歌がそうかどうかは定かではないが、多くの場合、詩歌に出てくる動物はじつは詩人その人である。それが端的にわかる例は、たとえば、本書にも出てくるカナリア…
唄を忘れた金糸雀は 後の山に棄てましょか
いえ いえ それはなりませぬ唄を忘れた金糸雀は 背戸の小藪に埋けましょか
いえ いえ それはなりませぬ
生活のために詩を断念するべきか否か、西条八十の私生活上の煩悶がこの童謡のモチーフなんだそうな。しかし詩では食えない男がたかだか商売人になるか、勤め人になるかという当たり前のことを、山に棄てられるとか、薮に生き埋めにされるとか、ふつうのサラリーマンに対して失礼じゃないかなあ。(笑)
本書のなかで、ことに好きな動物が出てくる詩歌は雲雀。いや正確には雲雀料理。
ささげまつるゆふべの愛餐、
燭に魚蠟のうれひを薫じ、
いとしがりみどりの窓を開きなむ。
あはれあれみ空をみれば、
さつきはるばると流るるものを、
手にわれ雲雀の皿をささげ、
いとしがり君がひだりにすすみなむ。雲雀料理
『月に吠える』
萩原朔太郎
この朔太郎の詩へのオマージュとしてつくられた現代短歌を二首、小池さんはあげている。
前橋の「雲雀料理」を売る店をあまたたびわれ夢におとなふ
皿の上に零ぼれるあわき血しずくの 雲雀料理やわれの愛餐
前の方が岡井隆、あとのほうが福島泰樹。わたしもひとつこのささやかな歌の花束に付け加えてみよう。
雲雀料理の後にはどうぞ空の青映しだしたる水を一杯
尾崎まゆみ
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