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2012年10月

2012/10/30

藪内亮輔さんの短歌

今年の角川短歌賞の受賞作「花と雨」を読む。「角川短歌」11月号。
受賞者は藪内亮輔、1989年生まれとのこと。ときどき図書館で短歌雑誌をぱらぱらとめくって眺めるくらいの人間なので、えらそうなことを言うつもりはもちろんないのだけれど、めずらしく冒頭の一首から最後までの五十首をじっくり読んで——そしてめずらしく感動した。これまでの受賞作、五十首もあるとふつうは途中で飽きて飛ばし読みしてたのだけれど。

冒頭の一首——

傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へ出でゆく

多くの短歌好きは、ここで小池光の「バルサの翼」を思い出すのではないか。

雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ
(小池光「バルサの翼」/1978年)

作者がこの歌をふまえているのかどうかわたしにはわからないし(たぶんそうだろう)、34年も前の若い歌人の心象にどう作者がこたえようとしたのかもわからない。
ただどちらもいい歌だなあ、とこころをゆさぶられるだけでいいのであります。

気に入った歌をいくつか抜いてみる。

あなたには深くふれないやうにして雨のくだける夕ぐれにゐる
春のあめ底にとどかず田に降るを田螺はちさく闇を巻きをり
みづからを抱くかたちに蛇がゐてしずかなりさくらばなは降りつつ
おまへもおまへも皆殺してやると思ふとき鳥居のやうな夕暮が来る
雨といふにも胴体のやうなものがありぬたりとぬたりと庭を過ぎゆく
雨はふる、降りながら降る 生きながら生きるやりかたを教へてください

例によって選考委員会の模様が収録されているのだが、委員のひとり永田和宏の発言を読んでいて、驚いた。4人の選考委員(永田、島田修三、小島ゆかり、米川千嘉子)全員が◎をつけたというのだ。えっ、と前の方の頁をくって見ていなかった候補作と予備選考のマトリクスを確認する。たしかに委員全員が横一列に◎をつけている。こんなの見たことないな、と思ってまたもとにもどって続きを読むと、永田が、五十八回の角川賞のなかで初めてじゃないかと言っている。
うーん、そうなのか。

もうひとつ。この「花と雨」という題は、受賞作にしてはどうも地味な邦画のタイトルみたいでなんだかなあ、と思ったのだが、やはり永田が「タイトルはあまりよくなかった」と言っているので、なんだかおかしかった。

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