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2012/11/13

追悼・丸谷才一

 

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図書館で「文學界」の12月号の丸谷才一追悼特集、池澤夏樹・辻原登・湯川豊の三氏の座談会を読む。面白かったところのメモを覚えとして。
すでに言い尽くされた感はあるが、戦前からの私小説をはじめとする偉ぶった大層なブンガクが、ぜんぜん面白くなかったこと。丸谷才一の登場によってやっと、ふつうのオトナの読むに堪える小説が登場したということなど。まずは池澤氏の発言——

池澤 私小説や求道の文学、高等遊民や放蕩者しか出てこない明治以来の日本の小説の伝統と全然違っていて新鮮だった。

これにたいして湯川氏の応答と池澤氏の要約——

湯川 池澤さんはいま、自分の身に引きつけて、日本の小説はあまり読まなかったと言われたけれど、丸谷さん自身がまったくそうなんですよ。中学時代から日本の小説はつまんなくてしょうがなくて、なんでこんなに暗くて楽しくないのだろうという疑問を抱いていた。
池澤 『宝島』と『次郎物語』を比べたらどっちが面白いか、という話なんですよ。簡単に言えばね。

続いて、辻原氏がいちばんいいと推す『輝く日の宮』の話題。源氏とこんど読んでみようと思っていた(丸谷才一がいいと書いていたからだが)尾崎紅葉の『多情多恨』にからめての湯川氏の発言——

湯川 たとえば紅葉の『多情多恨』なんて、それまで学んだ外国の小説の手法じゃなくて、『源氏物語』一辺倒ですよね。丸谷さんになって初めて、歪みがないかたちの作品を生み出せたのではないか。近代社会は戦後の日本でもまだ本当には成熟していないにせよ、市民的自覚を社会がもちはじめたという感じがあったと思う。それと『源氏』とを非常にうまくくっつけた。要するに紅葉ができなかったことを、丸谷さんがやっているところがある。丸谷さんが『多情多恨』について熱心に言うのは、そこに理由があるんじゃないかと思います。

最後の日のことを湯川氏が書いている。

湯川 最後まで書き続けたことで、そう感じさせるような気がします。倒れる十五分前まで、桐朋学園の同窓会のための挨拶の原稿を書いておられたわけですから。それがほんとうに絶筆ということですね。
池澤 間違いなく丸谷さんが怒るような軍国主義的な比喩が浮かんでしまった。木口小平(笑)。

悲しくさびしいのはもちろんだが、しかし丸谷才一らしいゴシップに仕立てて笑わせる池澤氏のユーモアのセンスはよい。「死んでもラッパを」云々という辻原氏の受けは蛇足に過ぎるけれど。まあ、若い読者もいるから校正のときに書き加えたのだろうと思うことにする。

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コメント

これを読むと辻原登という人は「全く機知も批評も欠如している」そうですから、実際に発言したんでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/denpatiro/20121017/p1
単なる馬鹿ですね、このひとは。

投稿: あ | 2013/04/04 05:09

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