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2014/03/29

ブルース・ダシルヴァ『記者魂』

ミステリー作家のジェフリー・ディーヴァーがこんなことを言っている。

短編小説の醍醐味は、ジェットコースターみたいな波瀾万丈なストーリー展開ではない。登場人物について時間をかけて学び、その人物を愛し、あるいは憎むことでもない。舞台となった土地の、入念な描写によって作り上げられた独特の雰囲気でもない。

逆に言えば、ここで「ではない」として退けられた要素が、ミステリーの長編における醍醐味だということになるだろう。

『記者魂』ブルース・ダシルヴァ/青木千鶴訳(早川書房/2011)は、ジェットコースターのようなストーリー展開こそないものの、あとの二つの要素、すなわち登場人物の造形と舞台となる土地の雰囲気が、魅力的な作品だ。
原題は『ROGUE ISLAND』。直訳すれば「ならず者の島」。作中に主人公とその恋人のこういう会話がある。

「ロードアイランドという名前の由来を知ってるか、ヴェロニカ?」
「知らないわ。でも、いまから教えてくれるんでしょ」
「いや、それはできない。じつを言うと、誰にもたしかなところはわかっちゃいないんだ。歴史学者が長年にわたってあれこれほじくりかえしてきた結果、残ったのはいずれも生半可な仮説ばかりでね」
「たとえば?」
「たとえば、ある学者はこう唱えてる。ロードアイランドとは、〝ならず者の島〟(ローグアイランド)から転訛した名称である。遥か昔の植民地時代、ロードアイランド州東部のナラガンセット湾沿岸に住みついた異端者や密輸人や殺し屋どもをさして、マサチューセッツ州の堅実なる農夫たちがそう呼んだのがはじまりだと」

土地の独特の雰囲気は、この植民地時代からの歴史の重み——表舞台のそれではなく、海賊、私掠船、腐敗政治家、マフィアといったならず者どもの体臭が染み付いた町が醸し出すものですが、それを作者は主人公の新聞記者の独白によってみごとに浮かび上がらせた。

叙述は一人称、翻訳では「おれ」をつかっている。個人的には一人称を「おれ」で訳すのは好みではないのだが、本書については、これがうまくきまっている。たしかに、これは「わたし」では無理だろう。この「ならず者の島」で生まれ、教師、警官、消防士、政治家、ギャング、ちんぴら、ぽん引き、のみ屋、役人、弁護士、保険調査員、不動産屋などありとある雑多な町の構成員が、すべて自分のガキ時代の遊び友達だったり、学校の同窓生、先輩後輩であったり、自分の両親や兄弟姉妹やいとこなどの知り合いであるというような男が、したたかな新聞記者として連続放火事件を追求して行くオハナシ。
じつに面白かった。
主人公以外にも、魅力的な登場人物が多いので、もう1作か2作ならシリーズにしてほしいような気がするな。


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