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2014/04/18

ポストモダンのミステリー『二流小説家』

『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴訳(早川書房/2011)を読む。
先に結論を言えば、ミステリーとしてはつまらない。ミステリの形式を利用した小説として読むならば面白い、という感じ。

主人公ハリーは、コロンビア大学で学位を二つとって、大学院進学希望者の必須テストで言語800点という秀才のくせに、あんまり上品とはいえない雑誌類に、SM小説、ハードボイルド、SF、ヴァンパイアものなどを、それぞれ別のペンネームで書き分けて食いつないでいるさえない小説家である。
金に困って、一応、経歴だけは立派なので、金持ちの子女が通う高校に家庭教師の売り込みに行ったら、クレアという女子高校生をまかされるが、すっかり女の子に足元を見透かされて、勉強を教えてやるはずが、作家業のエージェントごっこの道具に成り下がっているという設定。そこそこの作家としての野心がないわけでもないが、あんまり長いこと、濃いジャンル小説ばかり書いてたので、いまさらブンガクに色気をだすのも気が乗らない。
そんな主人公のところに、10年ばかり前に全米を揺るがした猟奇連続殺人の死刑囚から事件の告白のライターになってほしいという打診がくる。独房で愛読していた雑誌の「いけないアバズレ調教相談」なんてコーナーのライターがハリーだったからというのでありますね。まだ若い美女たちの頭部だけが見つかっていない、凄惨な連続殺人事件の真相を犯人がハリーだけに話して、出版してもいいというのだ。
実現すれば、ベストセラーは約束されている。

遺族には、もうそっとしておいてくれと詰め寄られ、担当のFBI捜査官には圧力をかけられてやる気がなくなったハリーは、「やるのよ!」と言うクレアに、こんなの引き受けたら死ぬまで傷痕が残る、とぼやく。

「死ぬまで残る傷なら、すでに負ってるじゃない。以前の職業はポルノ雑誌のライターだった。いまは高校生の期末レポートを代作している。亡くなったお母さんの扮装をして、ソフトSMのヴァンパイア小説を書いている。(中略)こう言っちゃ悪いけど、いまのあなたは負け犬よ。だからこそ、今回のことはあなたにとって大きな転機になる。おそらくは最後の転機にね。」

というわけで、ハリーが死刑囚に会いに行くと・・・てな展開であります。
本書のどこかに書いてあったと思うのだが、小説で難しいのは、最初の部分でも、最後の部分でもない。真ん中がいちばん難しいのだ、というのが二流小説家の主人公の意見。たしかに本書(ハリーがはじめて自分の本名で書いた「小説」がこの本、というメタフィクションなのね)も、まさにそのとおりで、読んでる途中は、ほんまに面白い。
ハリーが書き分けているジャンル小説が、ところどころに挟まれているのが、読ませる。ペンネームてのはやはり大事だなあ。(笑)


  • セクシーSF『惑星ゾーグ——さまよえる愛奴船』T・R・L・バングストローム著
  • 濡れ場の多いハードボイルド『四十二番街の裏切り』J・デューク・ジョンソン
  • ソフトSMヴァンパイア小説『深紅の闇が迫る』シビリン・ロリンド・ゴールド著

しかし、娯楽ミステリーも、とうとうここまできちゃったんだなあ、と嘆息。

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