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2015年8月

2015/08/29

『将軍の娘』ほか

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『将軍の娘』ネルソン・デミル/上田公子訳(文藝春秋/1994)
今年の4月に読んだジョン・コーリーものの新作『THE PANTHER』はイエメンが舞台なんだけれど、現地の大使館の保安を担当する部局のポール・ブレナーというナイスガイが登場する。オハナシのなかで、このブレナーがむかしは陸軍犯罪捜査部にいて、ある将軍の娘の殺人事件を担当したことがちらっと出てくるので、ああ、これは未読の『将軍の娘』の主人公かと気づいた。で、図書館で『将軍の娘』が見つかったので読んだわけ。デミルらしい、ぐいぐい読ませる内容なんだが、どうもこういう娯楽小説には鮮度みたなものがあるようで、いまひとつ面白くない。ほかにも未読のデミルはあるけど、たぶん同じような感想になりそうだから、これからの新作を摘み食いというのが賢明かもね。本書は絶版みたい。

『バカのための読書術』小谷野敦(ちくま新書/2001)
「有名で人も勧めるかもしれないけれども読んではいけない本」リストというのが本書にあって、たとえば『パンセ』だの『ルイ・ボナパルトのブリューメル十八日』なんてのがならんでいるのだが、つまりこのヒトのバカというのは、そういう本をとりあえず読む気がないでもないという人を指す言葉なんだな。ふつうバカというのはそういう人は入れないような気もするが、インテリもこの著者くらいになると、バカのレベルが高いのね。

『消えるオス』隂山大輔(DOJIN選書/2015)
副題「昆虫の性をあやつる微生物の戦略」。昆虫の細胞に共生するボルバキアは、宿主の性を操作して、オスをメスに性転換させたり、要らないオスを殺したりする細菌。たぶん一般向けでも、最低このくらいは押さえておかないと、という学者の良心かもしれないが、細かいところは、ふつうの人にはわずらわしいだけであんまり面白くないんじゃないかなあ。まあ、竹内久美子みたいなのばっかりでも困るけどさ。

『薔薇の王朝』石井美樹子(NTT出版/1996)
副題「王妃たちの英国を旅する」。チューダー朝のゆかりの町や建物を巡りながら、王や王妃の物語を手際よくまとめた好著。

『玉村警部補の災難』海道尊(宝島社文庫/2015)
壁投げつけ本。——とわかって読んでいるので、まあ、とくに問題なし。

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2015/08/17

『ネルーダ事件』その他

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この間に読んだ本。
『ネルーダ事件』ロベルト・アンプエロ/宮﨑真紀訳(早川書房/2014)
チリのバルパライソの私立探偵カジェタノ・ブルレを主人公にしたシリーズ。本書はほぼ全編カジェタノの若い頃の回想になっている。時代は1973年、アジェンデ大統領の樹立した社会主義政権がピノチェト将軍のクーデタで倒される直前。ネルーダはいうまでもなく、ノーベル賞作家で詩人のパブロ・ネルーダのこと。末期癌で死につつある詩人の過去の女性関係(事実に基づく)と、社会主義政権の気息奄々とした崩壊過程が物語の軸になる。虚実をとりまぜたミステリだが、本書はどちらかというと、1970年代の左翼的心情へのオマージュで、謎解きの要素は少ない。ただ、わたしくらいの年代には懐かしい時代なので、個人的に「買い」。

『孔子と魯迅』片山智行(筑摩選書/2015)
魯迅の「礼教食人」は、福澤諭吉の「門閥制度は親の仇」みたいなレトリックにあらず。本書より桑原隲蔵の孫引き。「かくて宋、元以来、父母や舅姑の病気の場合、その子たり又その嫁たる者が、自己の肉を割き、薬餌として之を進めることが、殆ど一種の流行となつた。政府も亦かかる行為を孝行として奨励を加へる。(中略)明・清時代を通じて、自己の股肉を割いて父母に進むることは、最上の孝行として社会に歓迎せられ、政府も亦多くの場合之に旌表を加へた。民国以後の支那の新聞にもかかる行為が特別に紹介されて居る。」(「支那人の食肉風習」1919年)いやはや。
注)「旌表」《せいひょう》善行をほめて衆人に知らせること。

『泥鰌と粋筋』高橋治(角川文庫/2003)
「大阪に自然保護を営業用に僭称する小西和人という男がいて」という文があって、「仮に人を一人殺しても良いということになったら、私は迷うことなく、この男を殺す」と明言してありますな。小西は「釣りサンデー」の創刊者。まあ、誰にも殺したいほど嫌な人間はいて当たり前だが、なかなかここまでは書けないと感心。


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2015/08/05

ジャングル・ブックとエセー

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『ジャングル・ブック』キップリング/三辺律子訳(岩波少年文庫/2015)
新訳。もののけ姫、おおかみこどもの雨と雪(はちと違うか)の遠い祖先。しかし、いまのアニメとは大いに異なり、子供向けの本ながら、ストーリーは殺戮につぐ殺戮。宿敵の虎を殺し、猿の群れを大蛇が催眠術にかけてつぎつぎに呑みつくす。最後の数百匹の群れで襲いかかる赤犬とオオカミの群れとの戦争は、ほとんど殲滅戦の様相を呈する。なにしろ発表された1895年は日本では日清戦争の年である。もちろんこれは非難ではない。念のため。

『エセー 5』モンテーニュ/宮下志朗訳(白水社/2013)
「栄光について」「嘘をつくこと」「怒りについて」「子供が父親と似ることについて」など25編。「子供が——」はモンテーニュ一族の医者嫌いの話。たまたま治ればすべて医学の勝利、悪化しても、治療したからこの程度で済んでるねんで、と言う。死んでしまったら、なんでもっと早う来なんだか、と天を仰ぐ。(笑)


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